ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』

 

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 ザ・バンドは、これしかない、というバンドである。

 

 リヴォン・ヘルムのドラム、ロビー・ロバートソンのギター、リック・タンゴのベース、リチャード・マニュエルの声、ガース・ハドソンのオルガン…
このなかの一つでも欠けたら・・・ということは想像し辛い。

 

 例えばリヴォン・ヘルムのゴツゴツとしたプレイをセッション・ドラマーのものと差し替えたら、それはもう別の音楽という気がするのだ。そういう意味でザ・バンドはひとつの「サウンド」だった。ブッカー・T&ザ・MG'sやファンク・ブラザーズがそうだったのと同じように。

 

 さいきん『ミュージック・フロム・ザ・ビッグ・ピンク』を聞き返してみて、ザ・バンドはとても「フィジカルな」バンドだったのだと気付いた。モータウンやインプレッションズをこよなく愛するメンバーが集まったということが重要で、リズムセクションだけ見たなら完全にR&Bだ。それから聴き方が変わった。これほど躍動感と身体性に満ちた音楽はないと思うようになった。


 もう一つ驚いたのが、ドラムの音の大きさ(録音レヴェル)だ。'We Can Talk'や'Chest Fever'など、ボーカルと同じぐらいドラムがデカく入っている。ハイハットの一粒まで明瞭に聴きとれる。これは結構極端なミックスの部類に入るのではないか。

 

 ミックスには作り手の思想が現れる、と思う。つまり、これまで音楽をきいてきて「どの部分に感動してきたか」がいちばん現れる部分と言ってもいいのではないか。


 ザ・バンドのメンバーは、アル・ジャクソン(ブッカーT&ジ・MGs)やベニー・ベンジャミン(ファンク・ブラザーズ)のドラムに魂を震わせてきた男たちなのだと思う。ドラムはR&Bにおいて本質的に重要な楽器であり、"口ほどに物を言う"。レヴォンのドラムもそうだった。

 

 最後に好きなエピソードを引用して終わろうと思う。ディランがザ・バンドのメンバーをバックバンドに雇って間もないころの、美しく、忘れられない逸話である。

 

ディランにパーシー・スレッジの<男が女を愛する時>When A Man Loves Womanとインプレッションズのアルバム≪キープ・オン・プッシング≫Keep On Pushingを聞かせ、「連中は何もたいそうなことはいってない。でも聞いてるとぼくは死にそうになる。あんたは1時間もぶつぶついってるけど、ぼくには全然ピンとこないんだ」と告げたのはロビーだった。

(中略)

「初期のロカビリーとかを例に出して」とロビーはふり返る。「一部のレコード、モータウンでもサン・レコードでもフィル・スペクターのでもいいんだけど、とにかく一部のレコードには、ヴァイブレーションというかひとつの音質があるってことを、ボブにわからせようとしたんだ。それまでのボブは『そんなことだれが気にする?ぼくは歌詞にしか興味がない』って感じだったからね。」

(バーニー・ホスキンズ『流れ者のブルース ザ・バンド』253ページより)