浮き島レコード

景色だけが変わり未来は過去になる

Ariana Grande『Sweetener』


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アリアナ・グランデの新作『Sweetener』を聴きました。先行シングルからしてよりシリアスでコンセプチュアルな作品になることは予想できましたが、まず驚いたのはフォー・シーズンズの「An Angel Cried」(1964) のカバーから始まることです。そんなに有名な曲とも思えないので、なぜこの曲なのか?と驚きました。
 
考えてみればフランキー・ヴァリを始めとしてフォー・シーズンズのメンバーはイタリア系であり、同じくイタリア系のアリアナの大先輩にあたります。クレオールとしてのルーツを確認する作品を作ったビヨンセのようにアリアナもまた自らのルーツをとらえ直したのか?と思いましたが、ブロードウェイ時代のレパートリーとかそういう感じかもしれませんね。
 
サウンド・プロダクションに関して言えば、これまでは何と言ってもマックス・マーティンの存在感が大きかったわけですが、今作では15曲中7曲をファレル・ウィリアムズが手がけていてアルバムのカラーを決めています。この2人の接点としてはカルヴィン・ハリスの「Heatstroke」(2017)があって、なんかその辺から今作のコラボレーションに繋がったのでは?と思いますが、両者の組み合わせが思ったよりずっと有機的に作用していることに驚きました。ビート的にはミッシー・エリオット(本作にも参加)の「WTF」からN.E.R.Dの最新作まで続くファレル自身のスタイルを踏襲していて、彼が得意とするチャカポコ・スカスカサウンドが展開されていています。そこに乗るアリアナの歌唱もグルーヴに乗ってたゆたうような抑えたものです。しかしドラムマシンの音色にせよコーラスにせよ一音一音が磨き上げられておりまったく不足を感じさせないのが凄いところです。たとえば「R.E.M」に使われているスウィートなシンセとかアリアナのコーラスと重なるとほんとうっとりします。
 
“音圧競争”という言葉が過去の野蛮な風習と思えるように、このアルバムのサウンド・プロダクションはきわめてミニマルでエレガントです。もちろん音圧が無いわけではないのですが、音の塊としてゴリ押しするというよりは音数を削り一音一音を磨き上げることでめちゃくちゃ抜けの良い音を作っているという印象で、なんとなくコーネリアスのエンジニアのインタビュー (https://ototoy.jp/feature/2017100901 )を思い出しました。
 
しかし改めて、かつて先鋭的な電子音楽にしか許されなかったような音響がポップスにごく自然に取り入れられているという状況に驚きを感じます。テン年代後半はアメリカを中心にポップスのリズムやサウンドが先鋭化し「メインストリームこそ面白い」時代だったと思いますが、その空気感を記録したものとしてこのアルバムは歴史に残るのではないでしょうか。